ドリル加工について技術的なことを述べたいと思います。ゴルフヘッドにおいてドリルと言う工具はシャフトを挿す穴を開けるために使います。私のところで製造するヘッドは全てリーマを通すか、リーマと同じ効果が得られるバニッシングドリルを使うかしていますので穴精度が問題になったことは有りません。今から述べるのは、皆さんが普通にドリルを使って金属の板や丸棒などに穴を開けたときに起きるであろう現象について述べます。まず、ドリル穴は縮小するかと言ったことについてですが、当たり前に考えるとドリルが振れていたり、切削抵抗のアンバランスが生じているような状態では穴の寸法は拡大傾向となります。ところが開けた穴にシャフトやゲージを入れようとすると穴がきつくて入らない事があります。あるいは開けた穴にそのドリルを入れようとすると途中で引っかかってそれ以上入らない場合があります。こうなると加工した穴が縮小したとなりますが、本当に穴が小さくなったのでしょうか?ドリルが新品の時など、良く切れているときはこのような現象はあまり生じません。摩耗が進んでくる、又は摩耗が促進されるような切削条件の時にこのような現象が多く見られます。切削の熱によって膨張した金属に穴を開け、直ちに収縮すると言ったことは一般的な加工においては考えにくいのです。硬質ゴムを含むプラスチックの様な材料で熱伝導率のきわめて小さい弾性材料であれば、切れ味の悪いドリルで穴を開けようとすると大きな背分力が生じて穴が収縮して開くことは考えられます。しかし金属では先に述べたように穴の寸法は拡大傾向となるはずです。ではいったい何故、穴が小さくなったのか。原因としては3つほど考えられます。いずれもシリンダーゲージで計測するとドリルの寸法よりも穴は大きいのですが、同寸法のシャフト、ドリルは通りません。1番目の原因は穴が曲がって開いている場合です。これだと穴径自体は大きくても引っかかって通りません。穴の曲がる原因としては機械精度、材料の固定、穴開け表面に傾斜が有りドリルの食いつき時に滑って挫屈するといったことが考えられます。2番目に切削送りが高送りで有る場合。切削中のドリルには通常、高いスラスト加重がかかり、押さないと切削はおこりません。しかし、貫通直前になると先端が覗いて穴が開き始め、大きな下穴が開けてあるところにドリルで通す様な状態になります。こうなるとドリルにかかっていたスラスト加重は逆向きに作用してドリルは押さなくても外周のねじれ角にリードされて貫通しようとします。ちょうどタップで回転させれば押さなくても下へ回りながら入っていってネジが切れるのに似ています。ハンドボール(電動ドリル)で穴を開けたとき、貫通する際に引き込まれる経験をしたことはないでしょうか。これと同じ現象です。ようするに穴が抜ける際、それまでの切削送りよりも引き込まれることで切削送りが早くなります。早く送った分だけ、削れる量が少なかったので、貫通側の穴が入った方より狭くなるのです。これは、貫通させたときに起こる現象で、パターは穴は貫通しないので、これが理由の縮小は無いと思います。3番目は多角形の内接円がドリルよりも小さい場合。ドリルで皿モミを行うと三角形、又は五角形などの奇数多角形の皿穴になってしまうことがあります。無理にそのまま穴を開けていくと、かなり大きなリードで穴の中でねじれが生じます。穴の形を柱に例えるなら、三角形とか五角形の柱をねじった様な形状だと思ってください。三角おむすびの様な穴になり、穴の長い方向には拡大しているのですが。内接円は工具径よりも小さくなってしまいます。これがパターなどゴルフのシャフト穴に多い穴の縮小の正体だと思います。修正方法としてはリーマを通せば直りますが、私ども製造者としてはこのような不細工な加工はすべきではないので工具の管理、選択には気を遣わなくてはなりません。1番目の解決方法としてはセンタードリルで穴をモミ付ける事と必要最低限の刃長にし、無駄に長いドリルは使わないことです。2番目はドリルの先端角をやや小さい物を選び、ドリルの溝のリード角はあまり大きい角度の物を使わないことです。3番目はドリルのチゼル部(先端)の切れ味が良いときによく起こるので、スラスト加重が大きくなるよう切削条件を設定すれば、かなり防げます。ドリルの研ぎ方で逃げ角を大きくして送りを早くすると良くなります。これら、個々の対処方法は互いに矛盾したもので有る場合があるので工具寿命や加工能率の向上には結びつかず難しい問題となることが多いです。私の所では幸い機械は高性能なので高価ではありますが、これらの問題を生じないドリルを使うことができます。どんな些細な穴開け加工でも妥協しない事が最終的にパターの性能向上につながります。下の画像のドリルの先端中心部をチゼルと言います。

左側の大きい方が鉄用、小さい方がステンレス用です。リードの溝の角度がステンレス用の方がねじれ角度が大きいです。材料が粘いステンレスの切り屑を効率よく排出するために角度が大きくなっています。
逆に鋼の場合はそれほど大きい角度は必要なく、溝の角度を浅くすることで切り屑の排出を楽にしています。
いずれのドリルも掴む部分の事をシャンクと呼びます。

ドリルの話は今回はここまでにして、次に出来上がったばかりのCPMの左用を紹介します。



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